日常が日常じゃなくなる

今は午前6時。昨日は卒業式だった。昨日は卒業式を終え、家に帰り、5時半に入間に着くようにまた家を出た。どこのクラスがやるように、俺のクラスも例外なく最後にみんなで集まって遊ぶということになってたからだ。正直行く途中少し面倒臭かった。集合時間10分前に到着し、先に到着していた数人のクラスメイトと全員集まるのを待っていた。しかし、主要メンバーが集まらない。来ないやつらに電話をしながら30分ほど待ったところで、帰りたくなった。
「どうせいつものクラスの打ち上げみたいなもんで大して面白くないのに、なんで俺は早く来て来ないやつに電話までしてるのだろう」
そんなことが頭を過ぎった。今思うと、とてつもなく浅はかだ。
またしばらくしてようやく人が集まりだし、みんなでゴハンを食べるということで近くのガストに移動した。ガストでゴハンを食べてるうちに今日集まる人全員が揃い、ゴハンを食べ終わった後はボウリングをすることになった。そしてボウリング場へ。そのとき俺はあまりいい気分ではなかった。クラスの集まりなのでもちろん俺の彼女も参加してるわけで、一緒に居られるのはいいんだけど、クラスのみんなで集まってるときにベラベラ喋るわけにもいかず、こういうときはいつも悶々としてしまう。しかも今回はボウリン。全員で24人もいたので6レーンに分かれて対抗で勝負することになって、しおりは俺の3つ左のレーンで女2男2という構成でボウリングをしている。クラスの男とハイタッチなんてしてるわけで、嫉妬深く器の小さい俺としてはすこぶる気分が悪い。見てると余計に嫌悪感が大きくなるので、できるだけ自分のボウリングに集中して、気を紛らわせていた。
「やっぱり帰ればよかったな。帰れば少なくとも見なくて済んだわけだし。」
本当にバカだったな、俺。
ボウリングが終わると、徹夜でカラオケオール組と帰宅組に分かれた。俺はオール組で、しおりは帰宅組だった。少しほっとした。オール組は結局男14人、女4人になった。カラオケに着くとなぜか女の子と男で別々の部屋に分かれることになった。男は数人ブーたれてたけど、俺としてはどっちでもよかった。カラオケが始まったのが0時頃。最初から低かった俺のテンションは、時間が経つにつれ下がっていき、3時間ほど経過したころには激低だった。
なぜかすごく悲しくなった。
泣きたくなった。
だから泣いた。
みんなはそれなりに盛り上がってる中。
一人だけ泣いている俺。
カラオケの爆音が泣く声を掻き消してくれていた。
寝たふりをしながらだったので誰も気づいていない。
気づいてほしいのか、ほしくないのか。
わからなかった。
しおりに会いたかった。
会いたくなかった。
絶対別れたくなかった。
だから別れたかった。

気づくと少し眠っていたみたいだった。俺が起きた時にはみんなも少しテンションが落ち着いていて、部屋は語りモードになっていた。
「卒業したらみんな会えなくなるな」
「俺なんて引っ越すからこっち戻ってこないよ」
「学校楽しかったな」
「21日の登校日とか、俺話すのメッチャ楽しかったもん」
「卒業したくねぇ」
「俺大学辞めたい」
「なんだかんだでこのクラスよかったわ」
なんて言葉が交わされる。そこでようやく気づく。集合時間から始まった俺の思考の浅はかさと、テンションが下がったあとになぜか悲しくなり胸が苦しくなった理由。わかった時、急に話しかけられた。
「ケンジロウはどう?」
俺は・・・
「俺もマジで嫌だわ」
 
高校生活の終わり。今までの日常が、これからの日常でなくなる。それは、とてもとても悲しくてつらいこと。毎日当たり前のように会ってた人と、これからは会わなくなる。仲の良い友達も確実に会う回数が減る。クラスメイトとは年に数回しか会わなくなる。もっと最後に色々話しておけばよかった。いや、でもそれもつらいだけかもしれない。
「なんか家庭研修期間は友達と遊ぶ約束たくさん入れちゃったから・・・ケンジロウくんとはあんまり会えないんだ、ごめんね」ってしおりは最近よく言っていた。「それはしょうがないからいいけど、ホントに俺と会いたいなら会ってくれよ」って思ってた。今わかった。気づいてなかったのは俺だ。しおりはこうなるって気づいてたから色んな人は約束をしたはずだろう。俺とは高校を卒業しても会えるから。そうだよな。それがいい。
彼女とずっと一緒に居たい。一緒に居られれば他になにもいらない。そんな風に思ったこともある。それは間違いだ。例えば、無人島で彼女と一生一緒に居られることを保障されるよりも、彼女とは頻繁に会えないけど友達とも会える生活を選ぶ。そんなのは当然だろう。大切なのは、色々な時間を持つことなんだ。
彼女との時間
友達との時間
家族との時間
夢を追う時間
全ての時間を大切にしたい。